ロヒンギャの悲しみ ③

「ロヒンギャの悲しみ ②」

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翌日、再びロヒンギャの村を訪れた。レストランの前では、ガイドのTさんが言っていたように、結婚式がおこわれていた。

ただ宗教的な服装で身を包んでいる人たちの中に、Tシャツで入る勇気はなかった。また部外者の僕が神聖な式を汚したくもなかった。

Tさんの家に行くと、彼は日向の軒先で寝転んでいた。

「ご飯を食べて行かないか?」と誘ってくれたので、呼ばれることにした。

Tさんは妻と3人の子どもとの5人暮らしだった。長女は8才で、長男が5歳、次男が2歳だった。

この2歳の子どもがペタペタと歩き回っていた。見えるものをなんでも触る。ニワトリもオモチャにされて逃げ回っていた。

出してくれたのは鶏肉の揚げモノとご飯だった。ご飯は鍋で炊く。ニワトリは飼っているモノをしめてくれた。

僕にはミネラルウォーターを出してくれた。おそらくミネラルウォーターは来客用のモノだった。普段は井戸から水を汲んでいるのだと思う。

Tさんにお礼を言って、家を出た。村を散策していると、例によって子どもたちが付いてくる。

僕の手を引いて、自分の学校の先生だとか家族を紹介してくる。自由に歩きたいが、そうはさせてくれない。

中年男性が揚げ僕を引き留めた。
「さあマイフレンド、僕の家に入れ」
言われるがまま家の軒先の椅子に座ると、男性の兄弟だという2人も現れて僕を取り囲む。そうして缶ジュースとフルーツをくれる。
「僕たちには日本人の友達がいるんだ。彼を知っているかい?」
日本の人口は1億2000万人もいるのだから知っているはずがない。この村にはかつて日本人のカメラマンが来たそうだ。そのカメラマンは過去3,4回にわたって村に来ているのだと。おじさんはFacebookで連絡を取ってくれた。
「村のみなさんは元気ですか? 僕が最後に訪れた時は緊張状態が続いていて取材も困難だったのですが」
「今はだいぶ平穏な状況にあるようです。警察官は一人、いますが僕を見ても何も言いません」

僕にとっては意外なことであったが、水道もなく電気もおそらく自家発電のこの村で携帯電話を持っている人が一定数、存在していた。そうしてこの陸の孤島は外部との細い連鎖を保っているのだった。
次にこの3人の兄弟に電話を繋いでもらった。その電話の先から日本語が聞こえたので驚いた。
「こんにちは。日本人の方ですか?僕は今、前橋に住んでいて」
事情を聞いてみると、日本で暮らしながら難民申請をしているのだった。ただ12年間、その難民申請は下りていない。
日本の難民申請の基準は厳しい。2016年は10901人の申請に対して難民と認められたのは28人だけだった。もちろん難民問題を単純な感情論で考えることはできない。偽装難民などの問題も内含している。
ただ本当に救われるべきであったには28人だけだったのか。法律学小辞典(有斐閣)を引いてみると難民の定義にはこうある。
「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられないもの又は受けることを望まないもの及びこれらの結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、その国に帰ることができないもの又は帰ることを望まないもの」
法律用語はどうして一文がこう長いのだろう。志賀直哉を見習ってほしい。難民と認められるのは非常に困難である。また直接、この方からお話を聞いてみたい。
家の2階に招かれた。「ごはんを食べていけ」ということである。
「1時間前にご飯を食べたので満腹だよ」と言っても「No problem」である。

かなり豪勢な食事を出してくれた。とても全てを食べきることはできない。残してしまったことを申し訳なく思った。

下に行くと子どもが果物を筒に入れてすりつぶしていた。興味深げにその様子を覗いていると「食べろ」と僕にくれた。酸味の強いいちごのようなものだった。
おじさんと子どもたちに「ありがとう」と伝えて家を出た。子どもたちは付いてきた。子どもたちの数が雪だるまの膨らんでように瞬く間に20人ほどになる。
「See you again」と手を振って僕は村から町に続く道を行く。子どもたちが駆け出して僕を追いかけようとする。

すると大人が真剣な顔つきで子どもたちを制止する。ロヒンギャは村から出ることができないのだ。振り向くとまだ子どもたちがまだ手を振っていた。僕には村がかすんで見えた。

第23話 「螢川」

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