幾山こえて

夜中に降り始めた冷たい雨が止んだ後、山には朝靄がかかった。湿っぽいTシャツが迫り来る雨季を予感させた。

老人は水煙草の煙をたなびかせながら「うまいか?」といった目で僕を見る。

水煙草を吸う男

うなずいてチャーハンをのせたスプーンを上げる。確かにインディカ米のチャーハンは日本のそれと比べてもうまい。

大型の古いファンがガタガタと音をたてながら風を送ってくる。よく見ると胴体部分に「SANYO」と印字されている。三洋。山陽。ここは日本の、例えば郡上の山と少し似ている。

「だが、ここは異国なのだ」

民族衣装を身にまとった老婆がそのことを実感させる。

スカーフを売りつけてくる民族衣装の女性

3月の初め。僕はベトナム北部、中国との国境にほど近い町・サパにいた。首都・ハノイからは列車とバスでおよそ10時間。フランス統治時代に避暑地として整備された町だった。

村上春樹の小説を枕にして眠っていると、ドミトリーのドアが開いた。

「やぁ、ハヤト」

エティーン君だった。3日ぶりの再会であったが、旧友にあったような心持ちがして彼の手をとった。

「思ったよりも早くに着いたんだね」

彼は顔をクシャリとさせて、僕の手を握り返した。

エティーン君はキルギスに帰るために、サイゴンへ行ったのだが、休暇が一週間、延びた。そこでラオスまでを共に旅することになった。

モーターバイクに2人乗りで散策した。標高1600mに位置するこの地には山岳民族が住んでいる。

竹林に囲まれた幽遠な道を行くと彼らの村に着く。昼間であるにも関わらず多くの子どもが家の軒先で遊んでいたり、物売りをしていたりした。

日本ではあまり見かけない丸形の棚田もあった

長旅で疲れた心を癒すように緑が目に飛び込んでくる。未だ多くのが自然が人間の手におかされずにあった。喧騒を離れ、心は平静にあった。

3日間の滞在の後、僕たちはサパを離れることになった。美しいこの地からは離れがたかった。それでも行かなければならない。

誰にも強制された旅ではない。だが、僕たちは進み続けなければならなかった。旅はまだ続く。

第11話 「国境で引き裂かれる二人」

https://dokushoplacecom.wordpress.com/2018/03/26/国境での別れ/?preview=true

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