お正月とバレンタインデー

「明日、僕の家で行われるお正月パーティーに来ませんか?」

一日中、トゥクトゥクを運転してアンコール・ワットなどの観光名所を案内してくれた運転手が言った。

僕とY君は喜び勇んで、その招待を受けた。運転手はとても親切そうに見えたし、実際に一日、行動を共にして信頼に値する人だと思ったからだ。

僕たちが腹を空かしていると茹でたトウモロコシを買ってきてくれたし、クーラーボックスには冷えた水も用意してくれた。

「本当にお呼ばれして良いの?」

そう尋ねると彼は

「もちろんさ、マイフレンド。僕は仏教徒だから嘘はつかない。嘘をついたらコレだから」と手で首斬りを示した。

「ありがとう。スゴく楽しみにしてるね」

別れ際にトゥクトゥクのチャーター費40ドルと、それとは別に10ドルを上乗せして払った。

その翌日は旧暦でいう正月の2日前であった。日本人には馴染みがないかもしれないが、東南アジアの国々の人は旧正月を大切に祝っている。

鯉のぼりのような龍を10人ほどで操っている

僕たちはスーパーマーケットで「白鶴」の1,8リットル瓶を購入した。

「食べ物だと奥さんが気をつかうだろうだろう」とか「モノは邪魔になるかもしれない」などと考慮した結果だった。

約束の10分前から集合場所で待っていた。招待してもらった僕たちが遅れるわけにはいかない。

5分前になってもトゥクトゥクのエンジン音は聞こえてこない。Japanese rice wine の白濁した色のように僕たちにも一縷の不安がよぎる。猜疑心を打ち消して彼を待つ。

3分前、2分前。そして集合時間。待てど暮らせど運転手は来なかった。日本酒の大瓶を抱えたまま呆然と立ち尽くした。

僕たちは騙されたのだった。ただ何故、そんな嘘をついたのか、あるいは急に招待を止めにしたのかが理解出来なかった。

仏教徒は嘘をつかないと言ったのに……今ごろは首が飛んでいるだろう。

夕方からは切り替えてシェリムアップのナイトマーケットをブラブラとした。

Gの文字が消えたナイトマーケットの電飾

この日は東洋の旧正月前であると同時に西洋のバレンタインデーでもあった。

もっともカンボジアと日本ではバレンタインの文化も異なる。カンボジアでは男性が想いを寄せる女性に花を渡す。

街中では頬を赤く染めた女性が、恥じらいと歓びを含んだ表情を浮かべながら、花束を抱えていた。

ナイトマーケットには贋物が戸棚に所狭しと並べられていた。NIKEのシューズが1200円。Supremeのシャツが300円といった具合に。

様々な商品が所狭しと並べられている

商品を指差して「How much?」と尋ねると売値の倍以上の価格を突きつけられる。そこから値段交渉していく。

あちこちで値段交渉が行われている。その様子を眺めているだけでも楽しい。ただ中には店員に対してかなり横暴な態度をとっている客もいる。

これはシェリムアップだけでなくタイやプノンペンでもだが、観光客の現地人を卑下するような態度を目にする機会が度々ある。

人を軽蔑する目。言葉は伝わらなくても、その態度は伝わる。そういった目を見る度に胃酸がこみ上げてきて、苦々しい気持ちになる。

そこには単に客と店員という構造だけでは説明出来ないものがあるだろう。

残念ながらこのような横柄な態度は日本人にも見られる。その原因には経済成長の度合いや衛生面など先進国の基準で他国を見ることがあるのではないか?

日本はインドシナ半島の国々と比べると経済的に豊かである。インドシナの国々は暖かく、穏やかであるが、貧しい。道端には乞食が寝転がっているし、レストランで食事をしていても物乞いの子どもが寄ってきて、消え入りそうな声で「Please 」と、コカ・コーラのカップを差し出してくる。

衛生面でもマーケットに並ぶ食品にはハエがたかっているし、誰もそれに対して特に注意を払うこともしない。

ハエがたかる生肉

経済や衛生面では途上国といえるかもしれない。ただそのことが別にその国の価値を決めるわけではない。

先進国の国民が何も偉いわけではない。自分たちの定規に囚われて、目の前の相手を見ることが出来ないのは悲しい。

社会が人間相互の関係によって規定されるのであれば、僕たちに必要なのは観念ではなく、情念である。

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