函館の夜に。

「台風は北海道には来ない」
その言葉を信じて台風から逃れるように本州を脱出したのだが、台風はしっかり僕を追ってきた。ベッドの横の壁板が剥がれるんじゃないかと危惧するくらいに風が壁板をノックしていた。
「今日は動けへんな」
もう一日、函館に留まることにした。その旨をライダーハウスのオーナーに伝えにいくと「連泊は1000円で良いよ」と。
「停滞やな」
バイク乗りたちも今日はステイを決め込んでいた。同じ場所に留まり続けることを停滞という。梅雨前線のことではない。停滞がひどくなると沈没になる。
船内で知り合った筑波大の青年は今日中に出発するのだと。
昼前に台風は通り過ぎていった。電車もボチボチ動き始めた。函館駅に彼を見送りにいった。
「また札幌で会えたら良いね」
短い別れの挨拶と握手を交わした後、彼は券売機の方へと歩いていった。
海が見たくなった。台風が過ぎ去った直後の。海は波が高かった。海鳥が風に煽られながら飛翔していた。海鳥よ、そんなに急いでどこにいく。

海鳥

僕は岸壁の小高くなったところに寝転がった。そうして波の揺れる音を楽しんでいた。台風一過の空は青く澄んでいた。岸壁に打ちつける波しぶきが全身をしょっぱくした。諦めて帰ることにした。
ライダーハウスではバイク乗りの人達が飲み会を始めていた。50歳くらいの人が3人。遅めの夏休みを取って来たのだと。
「兄ちゃんも飲んでいきなよ」
お酒を呼ばれることになった。酔うと人は饒舌になる。迂遠な僕の理想を笑わずに聞いてくれた。意味のあることもないことも何時間でも話し続けた。自分の父親と同年代の人と真面目な話をしていることが気恥ずかしかったけれど嬉しかった。
夜になって近くの定食屋に4人で向かった。炒めた音が聞こえないままに出てきたジンギスカンはあまり美味しくなかった。
帰ってまた飲んで、それから寝た。翌朝はそれぞれ別方向に旅立っていくのだった。

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