グッドバイ、本州

「アカン、酔うてもうた」
僕は「酔う」というものは何にでも弱い。車もバイクも山も。船にも弱いということを自覚した。
甲板で潮風に打たれながら離れていく本州を見ていた。台風が迫っているからか、それとも津軽海峡はいつもこうなのか分からないが波が高くて船もよく揺れた。
四時間の航海でヘトヘトになった。
函館の港に着いた時、一人の青年が話しかけてきた。
「輪行ですか?」
自転車を畳んで袋に入れて運ぶことを輪行というのだが、突如として目の前の青年から専門用語が出てきたことに驚いた。
彼は筑波大に通う一回生で工学を専攻しているそうだった。筑波の下宿から鈍行で旅を続けているのだと。
旅は道連れ。二人で五稜郭を見に行って、ラーメン屋で麺を啜った。900円をケチって五稜郭タワーには登らなかった。地上から見ただけでは何も面白くない。ただの公園だった。ラッキーピエロというハンバーガーショップのチキンバーガーが旨かった。
1500円のライダーハウスに行った。彼は小綺麗な格好をしていたので嫌がるかなと思ったけど即答で「良いよ」と言った。そのライダーハウスはライムライトといった。チャップリンの映画の題にライムライトとあるが、このライダーハウスが何に由来しているのかはよく分からない。看板には「来夢来人」とあった。
その夜、台風の接近で暴風が吹き荒れるなか、彼と函館山に夜景を見に行った。森林で風は遮られていたので林道を歩く分には問題が無かった。暴風は僕たちの頭の上を脅かしていった。一時間で山頂に着いた。

函館山

一瞬間の内に心が圧倒され、そして高揚した。眼下に見える橙色の街の灯りや停泊する船の銀色の灯り。この時の僕たちにとって函館の街は一つの象徴画を作るためのピースでしかなかった。霧は時折、僕たちの目前から絵を隠した。霧が晴れて再び絵が現れた時、僕たちは何度でも飽きること嘆声を漏らすのであった。

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