銀河鉄道の夜

風は自転車の大敵だ。盛岡で実感した。漕げども漕げども進まず、午前中に盛岡を通りすぎる予定だったのに、実際に盛岡に着いたのは昼過ぎだった。盛岡は県庁のある街としては心もとなかったが、それでもレトロティックな建造物も多く残っていて人を惹き付ける魅力があった。この街は宮沢賢二や石川啄木が青春時代を過ごした街である。そんなことに思いを馳せながら歩いていると前から神輿を担いだ人の列が現れた。地区の祭りであろう。囃子太鼓の音や地元言葉の唄。それが私の中の旅情を高めた。
盛岡を出ると北を目指し、山奥に入っていく。どこまでも続く牧草地帯。向かう方向には群青の岩手山が屹立していた。

岩手山

国道といえど街頭一つもない。国道を行く車の灯りだけが頼りだった。峠の頂上からは星がキレイに見えた。こんな夜はきっと銀河鉄道が星々の間を走り抜けているのだろう。
集落の灯りを見つけると安心する。けれど近づいてみても人気が全くない。そうしていくつもの山を越えた。
午後九時をまわったころに着いた集落の無人駅で夜を越すことにした。道路上の温度計は一桁を指していたが、小屋の中は少し暖かかった。一昨日、買った梨と食パンがその日の夕食だった。食パンにピーナッツバターを浸ける。この旅の常食だった。
食事をしながら思い出した。今日は僕の誕生日だと。岩手と秋田の県境の山奥で迎えるとは思っていなかった。一生、忘れない誕生日になるだろう。
ベンチに寝転んだ僕の目の前に一枚の張り紙があった。指名手配書だった。確かに手配犯が隠れ蓑にしていそうなところだった。
僕は空想した。手配犯が扉を開けて入ってくる。きっと頬は疲労で痩けているだろう。ダウンジャケットには土が付いている。思わぬ占拠者に驚きを見せながらも僕の隣に座る。僕の目は自然と手配書にいく。彼も僕の目線を追って手配書を見る。顔を見合わせた手配犯と僕の間に一瞬の沈黙ができる。彼の表情がナイフのように鋭くなる。静かに懐中に手を伸ばし……
そんな貧相な空想を僕は楽しんだ。

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